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『花… 赤きその姿』
綺麗な花には棘が有る…
有名なコトワザだ…
事実、自分は何度も薔薇の棘に指先を赤く染められた。
妖艶な香りを漂わせ、近づく者を切り裂く魔性の花…
もしかしたら、その花の真紅は血の色なのではないかと錯覚してしまうことさえある。
だが、自分の指先から流れる赤い液体を見ながらふと思う。
薔薇は…傷つけるために棘をつけたのだろうかと。
花はそれ自体が芸術だ。
世の中で神以外の何者にも生み出すことの出来ない芸術『自然』
その中でも一際、突出し、空間を彩る花…
奪い合う血みどろの生態系の中で、生命の営みを支え、そしてモノを生み出し続けるそれはその恩恵を知らぬものたちに『狩』られる…
薔薇はそんなモノから身を守るために棘を身につけたのではないか?
何かを傷つけるためにそんなものを持つわけがない…
美しさが故に…薔薇は…今も人を傷つけ続ける。
そして僕に、訴える。
「いつまで奪う?」
僕はその花を初恋の人に贈った。ただ綺麗だったからという理由だ…
恋人は重度の病に犯されてる…何の病気だったかは覚えてない…
ただ、酷い喘息といわれただけだった。幼かった僕にそんな事もわかるはずもなく…お見舞いに行っては突き返された。
帰り道の公園のベンチ…一輪の薔薇と、向かいの花壇に生けられた花
僕は茎に手を触れ自らの血と同化する…あるいは逆の光景を見入っていた。
あの子はイタイのだろうか。苦しいのだろうか。指に小さな棘が刺さっただけでこんなに痛い。どちらがイタイのか?
そんな意味も無いことをぼんやり考えていた。
そして数ヵ月後、その子に凝りもせず会いに行った昼下がり。
頑丈で開く筈のない窓から、花びらが舞う様にゆっくりと…落ちた。
慌しく揺れ動くベッドの上。
運ばれていくそのこを見た。
綺麗だった…血が綺麗に見えたこと…後にも先にもそれっきり…
その子は僕の心に酷く酷く深い深い傷跡を残し…薔薇のように赤い記憶を残し…この世を去っていった。
公害病だったんだそうだ。
二度と治るともわからない喘息だった。
花はまたしても人類の生み出した物に刈取られた…そう思えて仕方がない…
僕はあの日のように、薔薇の花束をもち、あの子が居る場所へ歩いていった。
人々が安らかに眠る場所にこの花は非常識だと思う
だが…あの時にずっと渡せないで居た赤き花を…その手に…
END
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