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「ちっ、やばいわね」
私は自分の持っている棒状の物体を振り回しながら、襲い来る浮遊物を叩き落す。
それは小さく爆発し、コンクリートの上に金属音を響かせながら沈黙する。
しかし通路にいくつもある排気口のような場所から、今叩き落した羽虫のような機械がぞろぞろと這い出してくる。
長く黒いい髪をうざったく思いながらも私は体ごと腕を振り回し、羽虫を撃墜していく。
だけど・・・だんだんと腕が痺れ、息も荒くなってきた。
運動不足がたたっちゃったかな、ははは
「いい加減うっとうしいのよ!!」
私は罵声を発しながら棒状の物体から垂直に伸びた光で一気に5体の羽虫を薙ぎ潰した。
私は愛用の鎌状光化学兵器、『レイシザー』を発動させた。
次々と熱で融解させられる羽虫の地面に落ちていく音が連続で響き渡る。
こんな所で止まってられない、早く竜火を見つけ出さなきゃ。
だけど・・・ここには居ないらしい。代わりに感じるこの気配は『違う奴』でしょうね。
しかも、そいつはすぐ近くに居る…近づいてくる。
私は羽虫を両断しながら走り出した。
ORUGA-ZERO
No02:Calamity Girl
(1)
「ふぁ〜・・・」
俺はでかい欠伸を口から漏らしながら森の中の道を歩いていた。
木漏れ日が気持ちよく今にも眠ってしまいそうになる。
(お前はあれだけ寝ても寝たり無いのか)
背中に背負った刀剣の一本『ゼノ』が呆れたように呟いた。っていうか呆れられてるんだろうなぁ。
25時間ぐらい寝てたからな。ははは。
だけどそれぐらいは寝なきゃ体が持たないのだ。
俺はこの背負っている2本の刀剣『ゼノジード』と『ヴェルディアード』の力を借りてパラレルワールド間を旅している。
もちろん、その次元の壁を越えることは並大抵のことではなく、時空壁を歪ませることで天変地異が起こるほどの時気乱流を、起こさずに生身の身体でわたるのだ。
身体への負担は相当かかり、自らの力もゼノとヴェルの力も一定時間は使用不可能になるのだ。
しかも身体能力まで下がる。歩くのだって結構辛い。
「それにしても平和だな」
俺は何気なく呟いた。
(何も起こらないに越したことは無いが、言い換えればこの空間もハズレと言うことだ)
間髪いれずゼノが痛いところをついてくる。俺は今、『あるモノ』を探して旅をしている。
それはどこに存在するかは特定できないため、歩いて探し回るしかないのだ
「見つかる時は見つかる、見つからない時は見つからないでいいじゃん」
俺はあくまで楽観的に構える。それにゼノはため息をつき何もいわなくなった。
『ヴェル』はさっきから眠り続けている。
次元移動の際は主にヴェルディアード側のエネルギー消費が激しいので、よく眠るのだ。話し相手にも呆れらてしまったし…暇だな…
「ふぁ〜〜〜あああああああああああああぁ!?」
俺のあくびの後半分は悲鳴に変わっていた。
足が…足が空に向いてるよ!?
「なんじゃこりゃああぁぁ!!」
俺の首にはロープが巻きついている。それは木の枝を介して複雑に混ざり合い、何かの仕掛けにつながっている。あれ…この仕掛けどこかで…
(この仕掛けどこかで見たことあるんだが)
ゼノも同じのようだ…ひどく懐かしいのだが…あまりにも古い記憶のために少し曖昧になってる。
まぁ、それはそれとしても、いつまでも宙吊りになってるわけにも行かない。俺は足にかかったロープを解こうとした。が…
茂みの中からマシンガンやら何やらを持った人間が飛び出してきた。
俺は呆気にとられ、事の成り行きをみている。
俺のさかさまの頭に銃口が突きつけられた。その銃を持っている男は、ぱっと見、気のよさそうな40代前半と言った面持ちのおじさん。
他にも青年や少女、果ては老人が8人程度、武装をしながら逆さまの俺を取り囲んだ。
俺は冷や汗を流しながら手を上げ…いや下げた。
「名を名乗れ」
英語だった。なのに顔立ちが皆、アジア系だ。前の世界も似たようなものだったけど。
しかし、俺が名乗る暇もなく、男たちは俺が背負っていたゼノとヴェル、旅行道具に布を巻きつけた荷物を降ろす。そして身体を調べ始めた。
荷物も、布が外れないように、つけていたいくつものベルトがどんどん外されていく。
「ちょ、ちょっと、いったい何?」
俺はなるべくヒステリックに聞こえるように叫んだ。
「うるさい黙れ」
却下された。一体なんだって言うんだよ?
・・・・・・・・・・・・・・
「すみませんでしたねぇ」
目の前にいる老婆、(どうやらさっきの男の母らしい)が深々と頭を下げた。
「いえ、ボーっとしたこっちが悪いんですし」
あまりにも申し訳無さそうな老婆に俺は思わずそう返していた。
どうやらあれは何かを捕まえるためのわなだったらしい…って言うかそれ以外に使い道がない。
この世界はどうやら、俺の住んでいる現代に近い文明をしている。
マシンガンも少々形が違うものの、何の違和感もなかったし。服装もジーンズやらTシャツやらジャケットや ら、俺とよく似た服装だった。だが…
俺は部屋を見渡した。俺の目の前には囲炉裏がありすぐ横には土間がある。
内装が非常に和風な洋風建築物になっているのだ。外から見れば普通の一戸建てなのだが。
そのほかにも街中なのに所々に田んぼや畑などがある。色々な意味でミスマッチな世界だ。
「何のために、あのような罠を?」
俺は疑問を口にした。だが
「いえ、ちょっとした事件がありましてね。」
事件と罠が何の関係があるのかは知らないが、それ以上話すつもりはないようだ。
そりゃそうだな、見ず知らずの旅人にそうそう話すような事柄ではないだろう。
ま、俺はそのままにするつもりはないけど。
「よかったら力になりますが?」
その申し出を、老婆はやんわりと断った。
「すみません、もう、人に頼んであるんですよ。そう、ちょうどあなたと同じくらいの人でした」
そうか…。俺は軽くうなずくと身を引いた。そのとき、俺の目にあるものが入った。
それは囲炉裏の脇にある灰皿なのだが…
その灰皿に詰まっているタバコが俺の良く知っている銘柄だった。
「その人…『アキ』って言う名前でしたか?」
俺の言葉に、老人は目を丸くした。だとすればアタリだ。
「アキさんをご存知ですか、お知り合いか何かで?」
俺はそいつを良く知っている。もういやんなるくらいに良く知っていた。だがあえて、俺は老婆の言葉を無視する。
「彼女は何か言ってませんでしたか?」
俺の問いに、老婆は目を瞑ると、思い出したように口を開いた。
「私たちには手は負えないって、言っておりましたかねぇ…。あと、それが何かと聞いたら、一言だけ何かをつぶやいていました」
おれの鼓動が早くなる…
感性の鈍っている今の俺の体では感知できない物を、あいつは感じ取ったと確信したからだ。
「それはナンなのか、と聞いたら…『オルガ』と一言だけ…」
「その人、どこに向かいましたか!?」
俺は『ORUGA』の言葉が出てきた時点で俺は事の全てを把握し、老婆の言葉を静止するように立ち上がった。
自分でも息が荒いのが分かる…あいつ一人じゃ荷が重過ぎる。
その俺の尋常じゃない焦りように、老婆は怯えた。
「この街から北に行ったところにある廃棄された「軍事工場」です」
何だってまた軍事工場があるんだよ!?
俺は泣きたくなる気分を抑えながら老婆に礼をいい、土間にあった俺のスニーカーをはくと家を飛び出した。
(2)
大きな核シェルターの扉が私の行く手をふさいでいる。
居る……感じる。この先に『ORUGA』が在る。
私は『レイシザー』を構え、核シェルターの扉を溶断していく。
飛び散る火花が時折私の顔を撃つ。だけどこんな熱さは・・・
私は扉にキリのいいところまで光の刃をはしらせると一気に切断部分を蹴り倒した。
倒れた鉄板は埃を巻き上げ、それは私を包み込んだ。気持ち悪い。
鼓動が早まる。『共鳴』がこんなに早く体を蝕み始めるなんて…早く来てよ、竜火ぁ。
老婆から教えてもらった軍事倉庫への道を俺は走り続けている
(端末の適正化はとっくに終了してるわ)
今まで眠っていたヴェルがついさっき起きていた。
彼女はあちこちの俺を取り巻く環境の情報を整理すると、要点だけを俺に伝える。
願ってもないその言葉に、俺は多少なりとも救われたような気がする。
「ORUGAの反応は?」
俺の言葉には、ヴェルではなくゼノが答えた。
(1体、しかしサードフィリアル(第3世代)クラスの力だ、少々厳しいぞ?)
ORUGAとは、あらゆる次元体を行き来する絶対生命。
あらゆる形態を持ち、攻撃に優れるその本能はあるものに影響される。
高エネルギー体の捕食という本能。
どうやらこの空間に引かれるものがあったらしい。そしてたどり着いたようだ。
高エネルギー体…すなわちこの空間の何処かに眠るゼノとヴェルの同種『クロノアーム』を。
(それが軍事工場なんぞにあるのは皮肉だな)
ゼノは自嘲気味につぶやいた。気持ちは分からんでもないが、今は『あいつ』のことが心配だ。
「アレは?」
俺は、自分ですら聞きなれない言葉を使った。こんな状況でなければ、使いたくはなかったのだが。
(『端末』とこの空間の相性が悪すぎる、使用不可能だ)
ゼノのはっきりしすぎた絶望の言葉。それに俺は顔を青くするしかなかった。恐らくヴェルも同じだろう。
恐らく、この会話は誰が聞いても疑問符を浮かべるだけだろう。この1対の剣。
そして、俺自身が有する『力』の引き金が、完全に動かない状態にされてしまったというべきだろうか。
(亜季を助けるにはそのままで勝たなきゃならんということだ)
(ちょ、ちょっと!それは幾らなんでも…)
「やってやる」
ヴェルが反論しかけた直後、俺ははっきりと言い放った。
「俺が行かなきゃ」
俺はさらにスピードを増した。そしてそれと共に冗談じゃないほどの焦燥感が俺の身体を支配し始めた。
と、木々の間から小さな建築物が見えてきた。その中央に開いている穴に俺は飛び込んだ。
中は緩やかな下り坂で、施設が地下に広がっていることを想像させる。
そして下り坂を終えた所で、何かが俺の頬をかすめた。
「何だ!?」
俺がとっさに身体を屈めると、そこめがけて俺の髪の毛を引き裂きながら何かが通り抜けた。
(虫?機械の虫か?)
ゼノが素っ頓狂な声を上げる。当たり前だ、虫のメカニズムはまだまだ解明されていない。
機械化するなんて今の技術じゃ到底不可能なのだから。
「さすが軍事施設」
何が流石なのかはよくは分からないが、
俺が顔を上げると無数の拳大の大きさの蜂によく似た虫が視界に入ってくる。
ざっと150匹くらいか。その羽はどうやら柔軟性のある刃。俺の頬がぱっくりと割れているのが判る。
(竜火?どうする?)
ヴェルの問いに俺はすぐさま答えた。
「反撃は最低限で強行突破する」
そういい様に俺はゼノとヴェルの柄を握り、一気に駆け出した。
俺は虫の間を縫うように巧みなステップでランダムに動く。
虫の一匹が猛スピードで俺の心臓を狙うが俺は身体をひねりながらかわし、そのまま回転させながら斬撃を叩きつけた。
叩き潰されたようにひしゃげる虫の体。逃げ場の無いくらいに群がる虫たち。俺は身体を回転させながら剣を振るう。
火花を散らせながら四散する虫の間を潜り抜け。俺は入り組んだ迷路のような施設を縦横無尽に走り回る。
(そっちは行き止まりだぞ?)
確かに、見れば俺の行く先がぶつっと切れている。
「ヴェル?この施設は地下何階まである!?」
俺の言葉にヴェルは一瞬戸惑ったようだが、すぐさま俺の意図を把握すると元気に答えた。
(地下12階よ?)
うなずいた瞬間俺は思いっきり上体を反らした。
「うらぁ!!」
その掛け声とともに、振り下ろされる二本の刃。それは施設の床を粉砕し下の階への通路を作り出す。
だがそれで終わらさず、落下しながら今の一撃の反動を利用して一回転様に祖に下の階の床に2撃目を叩きつけた。
次々と破壊される床の破片をかわしながら、一気に地下12階まで通り抜けた。
俺は着地するとゆっくり顔を上げた。今までと違って静寂な通路…
違う…明らかに空気が違う。今まで気にはならなかったが、もうすでに壊された虫の残骸や、壊された壁。
手榴弾のピンらしき物体が足元に落ちているのも確認できた。
そして長い一本の通路の奥から感られる殺気。
更に、それと共に金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。
戦っている……
(感動の再会というわけには行かないわね)
ヴェルが緊張感を煽り立てるような台詞を言ってくれた。
それに次いで、この破壊された虫…壊されてからかなり時間がたっているようだ。
「一体どれくらい戦い続けているんだよ」
状況的に、俺をかなり焦らせてくれている。
俺は舌打ちすると、音のするほうへ走り出した。
(落ち着け、興奮したままじゃ勝てるものも勝てん)
俺は十分落ち着いているつもりだ。と言うより冷静で頭が冷え切っている。
見えてきた…巨大な扉。この規模と造りから言って核シェルターか何かだろう。
俺はぽっかりと開いた熱で切断されたことによって出来た穴の中に身を投じた。
中は意外と明るく、まっさらで何も無いドーム状の空間。
その中を二つの黒い影が鬩ぎ合い、火花を散らせながら連続してぶつかり合う。
片方は……犬だ。極めて異常な形をしている『犬の形をした』生物だった。
真っ黒なドーベルマンを思わせる鍛えられた筋肉。その身体全体を這うように奇妙な模様が描かれている。
その身体の模様が集まる場所、背中からは枯れ木のような漆黒の翼が生え、その一本一本が刃と化している。
鋭い牙をむき出したその顔にはびっしりと血管が走り、額の『あるもの』集まっている。
『第3の眼』だ。縦に開いたまぶたから、深緑の瞳がぎらぎらと光っている。
「ORUGAの亜種に近いタイプか」
俺はつぶやいた。
そしてその直後、ORUGAに弾き飛ばされた形で、俺の目の前にORUGAと戦っていた女性が移動してきた。
俺と同じくらいの背丈。見た目年齢も俺と同じ位。
腰まで伸びた黒く長い髪。その女性は美麗な顔つきではあるが、目が少し大きいのと子供が見せるような屈託のない笑顔をしているせいでかなり幼く見える。
黒いノースリーブのシャツ。腰に肩口の黒い赤基調の薄手のジャンパーを巻き、右膝のやぶれたジーンズをはいている。
右手に持った黒い柄の光を発する鎌のような武器を両手で構えながらその女性は立ち尽くしていた。
俺はその女性に出来るだけ軽い口調で声をかけた。
「髪、染めたのか?馬鹿姉貴」
その言葉に俺が姉貴と呼んだ女性、『佐倉木 亜季』は振り向きながら満面の笑みを浮かべた。
「遅いぞ?馬鹿竜火」
俺は軽く悪態をつくと、姉貴と肩を並べ、ゼノとヴェルを構えながら『ORUGA』に向き合った。
(3)
黒く広いドームの中、私が打ち開けた入り口に人影が立った。
青基調のいでたち、両手の剣、青い髪、鋭い目つきの中に光るエメラルドグリーンの瞳。
間違いなかった。何年も経っているはずなのに私の記憶の中と寸分も違わない姿。
そう。長い間、探し続けていた弟の姿が・・・
「髪、染めたのか?馬鹿姉貴」
いきなりの無粋な言葉。だけど、全く嫌な感じはしない。私はその言葉に、軽く言い返した。
「遅いぞ?馬鹿竜火」
軽く悪態をついた竜火は私の横に並び、ゼノとヴェルを構えた。
しばしの沈黙・・・敵の『ORUGA』は喉奥から低いうなり声を響かせ、じりじりと私達をけん制する。
だけど、さっきまでの焦燥感は全くない。唯一のしかし最強の味方が、来てくれたから。
俺は真っ先にORUGAに切りかかった。犬型OURGAは跳躍しそこから飛びのくが、俺の左手に持った剣の斬撃により
体制を崩す。そこにすかさず上から姉貴の鋭い一撃が振り下ろされた。
それはORUGAの枯れ木のような翼によってはじかれる。だが弾かれたはずの姉貴の腕は、さらなる速さで翼と切結んでいた。
(竜火、腕はあっちの方が完全に上だぞ?)
俺もそれを痛感している。俺と会わない内に相当腕を上げているようだ。
だが、姉貴に任せっきりなんて出来ない。俺は一気にORUGAとの間合いを詰めると、剣を構えた腕を交差させ相手を挟
みこむように一気に腕を解き放つ。
『双牙』
(ダメよ!当たらない!)
そんな事は分かっている。
予想通りORUGAは俺の左方へ恐るべき速さで移動した。後に枝のような翼を数本伸ばし俺を串刺しにしようとする。だが翼は俺に達する前に、振るった剣によってバラバラに切り刻まれた。そこに再び姉貴の刃が振り下ろされる。
鮮血が姉の黒い服にかかる。ORUGAの肩部がぱっくりと割れ白い骨格が姿を現す。
だが、こんなもんじゃ致命傷には至らない。傷口がブロックを組み立てるように失われた器官を再生する。
そして奴は再び跳躍するとその大きな口をいっぱいに開く。
ずらりと並んだ牙の間にプラズマが走り出す。
「ゼノ!!」
俺は右手に構えたゼノを大きく振りかぶった。刃に収束されるエネルギーにより刀身が輝きだす。
このエネルギーで奴の荷電粒子弾と相殺させるつもりだった。だが…
「!!」
ORUGAの口が俺ではなく、姉貴の方にむいた。
「え?私ぃ!?」
素っ頓狂な声を上げ姉貴は悲鳴を上げる。俺は瞬時に姉貴の前に移動し剣を構えた。
轟音と共に高エネルギーがゼノジードに圧し掛かる。
「あぁぁぁ!」
重い…相殺は出来そうだが…それまでに俺の体が持たない。俺は必死で脚を地面に押し付けてに力を込める。
「竜ちゃん?もしかして弱くなってない?」
後ろから姉貴が軽い調子で聞いてくる。その言葉にムカッと来た俺は思わずきつい口調で言い返した。
「じゃっかぁしぃ!!俺だって弱くなりたかったわけじゃねぇ!!」
そういえば、姉貴はこんな人だったことを今やっと思い出す。
「む、ひどいなぁ。せっかく久しぶりの再会なのに」
「そういうのは、時と場合を考えてくれ!」
姉貴はやれやれと言うように肩をすくめると俺の肩に手の平を押し付ける。
「私が支えとくから、遠慮なくやっちゃって!!」
俺はうなずくと足の力を抜いた。そして全ての力を腕にまわした。姉貴の力は思いのほか強く、十分な支えになってくれた。
荷電粒子弾と鬩ぎ合う刀身を俺は思いっきり捻り相手にはじき返した。
荷電粒子弾はORUGAをかすめ、ドームの内壁を爆発させた。
完全に予想外だったのだろう。ORUGAは再び低いうなり声を響かせ俺と姉貴に飛び掛ってきた。
だが、その行動は完全に俺達の予測していたことだ。
翼の幾本もの刃を巧みに使い俺達を切り刻もうとするが、全て俺と姉貴の刃により防がれ、逆に翼の根元と後足に深刻なダメージを負った。
さらに姉貴が追撃をかけ、ORUGAの背中にレイシザーの長い柄を叩きつける。幾ら傷が再生するとはいえ、衝撃自体の痛覚は緩和できないのだ。全身を痙攣させるORUGAは足を震わせ絶っているのがやっとの状態になった。
「ナイス連携!」
姉貴はうれしそうに言った。俺はほぼ身動きの取れなくなったORUGAに近寄る。
睨付ける3つの目が俺を突き刺していた。口を半開きにし、そこにプラズマを帯電させる。
俺は屈み、同じようにORUGAの目を睨め付ける。
「竜火?、こいつもなの」
半分確信したような姉貴の穏やかな言葉。
「当たり前だ。俺は何も殺せない」
俺も穏やかに言うと、顔面の筋肉を弛緩させた。
(甘いことだな)
ゼノが言うがそれはお互い様だった。ゼノもヴェルも、さっきまで戦っていた姉貴でさえも、こいつを殺そうなんて微塵も考えていなかったからだ。さてならばこれからどうするのかと言うと…
俺はORUGAの第3の目に手の平を添えた。するとORUGAはパタリと倒れた。眠りに入ったのだ。まだ少し帯電していたので腕がしびれたが、まぁ問題はないだろう。
(さて、あとはこいつを『送る』だけだな)
俺はゼノを背中のホルダーに引っ掛けるとヴェルを右手に持った。
(対象空間ロード…標準固定 エネルギー収束、時空壁断層固定…対空間、固定完了)
空間に断層が発生する。歪んだ空間は暗く波打ちせめぎあい渦巻いている。そんな空間を避けるように巨大な光の道が闇に向かって伸びている。俺は犬型ORUGAを抱き上げると、その断層の中にORUGAをかざした。
すると気絶したORUGAは宙に浮かび、穴に吸い込まれるように移動していった。
断層は跡形もなく消え何もない空間に戻る。
これで、一安心。どこに送ったのかはしばらくすれば判るだろう
「おつかれ」
俺はヴェルに労いの言葉をかけるが、帰ってきたのは寝息だった。
俺は苦笑いすると姉貴に振り返った。
「久しぶり」
「遅せぇよ」
間髪いれずに女性らしからぬ言葉で言い返してきた姉貴。だが怒っているわけではない。むしろツッコミだった。
「随分と私をほって置いてくれたわねぇ」
だが言葉にずっしりと重みがかかった。悪しきオーラがいっぱいだ。
確かにほっぽりっぱしなだった。それに無断で出て行ったわけだから。怒らないはずないよな…
悪しきオーラがいっぱいだ。勝てん、瞬時にそう悟った。
「ご免なさい」
「許す」
即決だった。ここら辺が姉貴の性格の気持ちがいい所だ。
「で、俺を罠に嵌めたのは?」
「もちろん私よ。貴方がこの空間に来てたのは判ったから、村の人に頼まれて情報収集して…」
「で、途中でどじ踏んで戦いに発展したと…」
姉貴は頭をかいた。図星だ。
やはりORUGAはここを巣にして、近隣に被害を与えていたようだ。
そこに姉貴が来たもんだから。
俺がここに来たと判っていた姉貴は町長に頼んで強引にでも引き受けたのだろう。
それに町民は、あの罠は対OURGA用とでも思っていたのだろう。
まさか肉親を釣るためとは思ってもみなかったせいで俺は銃火器突きつけられたわけか。
おまけにこの世界には存在しない銘柄のタバコを残してセッティング完了。
村長の家に行く確率も相当高かったようだ。
要約すれば『全部姉貴の計画通り』だ。
「だけど、助かったわ。全然勝てる気がしなかったのよ」
姉貴は朗らかにこっちの心配を煽るようなことを言った。
「俺が来なかったら命なかったぞ馬鹿姉貴!?」
その言葉に姉貴はくすりと笑うと俺をからかうような笑みを浮かべた。
「私の弟はそこまで薄情な人でしたかね?」
ダメだ、口論でも勝てない。
「…それはそうと、次元を超えられない姉貴が何故ここにいる?」
俺はさっきのことが無かった事のように疑問を投げかけた。
「えっとね、沙希さんに手伝ってもらったんだ」
俺はなんともいえない感情に襲われた。
『相原 沙希』、かつての俺の同僚の名前だ。
その、なんて言うか凄い特殊な形をした女性だ。
「ほら、そこに居るし」
姉貴が指差した方向には奇妙な物体が転がっていた。
四角型のマイクに胴体と手足が生えたような70cm弱の物体。
頭部には目に当たる部分に穴が大きく2つ開いてるだけで、胴体には大きく『封』と書かれている。
おまけに、まるで大昔の漫画に出てくるようなマジックハンド式の手。
「気絶してるじゃねぇか…」
ダメだ、笑いをこらえるのに精一杯(汗)
「やっぱり、戦闘は無理だったみたい」
人事のように姉貴はつぶやいた。
沙希さんはいくつかの特殊能力を持っている。もっともそのほとんどを使うことはないのだが。
「で、姉貴は俺を探しに来たんだろ?何の用事だ」
姉貴は待ってましたとばかりに顔を輝かせると、俺に近づき、覗き込むように俺の顔を見る。
「家に帰って欲しいんだ、一度でいいから」
ふむ、用は『会社』でトラブルがあったということか。
「OK、わかった。おとなしく戻るよ」
その言葉に姉貴は笑顔で頷くと、沙希さんの身体を背負い、ドームの入り口へと向かった。
途中で姉貴が振り返り、屈託のない笑顔で俺に言った。
「改めて、久しぶり、竜火」
そしてその次の日、俺達はこの世界から去り、俺の生まれ故郷へと向かった。
だが俺は一つ忘れていた。ORUGAがドームに居た理由。
クロノアーム…
結局見つけ出せなかったそれがそう遠くない未来で事件を起こした。
まぁ、今はどうでもいい話だが…
No01: Calamity Girl…… END
to be continue…
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